平山栄一記録簿  想哲理越憂愁     

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絶対私を好ましく思ってくれている・・・はず・・・

随分前にも書いたことのある話なのですが、新しいカテゴリーを作り、その初っぱなの話題とします。あんまり堅い話題ばかりだと読む人も肩が凝るし、私も同じように疲れます。人生、笑って過ごさないと免疫力が下がりますし。

 

カテゴリーの題名は「思い出すことなど」かな。

 

大学受験に失敗してしまい、予備校に行きましたが、そこでも早速嫌気がさし、やめてしまうことに。仕方ないので自己勉でがんばることに。大阪市の西区にある中央図書館に通いました。

 

と言っても、あんまり真面目に勉強していた訳ではありません。受験勉強ほどつまらないものはなく、すぐに飽きてしまいます。幸い本は腐るほどありますから、すぐに自習室から抜け出し、いろんな本や雑誌を読むことになります。ついつい色んな本を借りることもしばしば。受験には全然関係ないのですが。

 

確か一般図書のコーナーは2階だったと記憶してますが、合っているかどうかは分かりません。ともかく一般図書のあちこちの本棚をあさりまくっていた記憶があります。

 

実はその一般図書のコーナーに入り浸りになったのには、受験勉強に飽き飽きしたことの他に、もう一つ理由があります。貸出や返却の扱いを担当する受付の女性がとても、そう、とっても美人だったのです。

 

背中の中程までに伸びた美しい髪をなびかせ、目元涼やか、口元はいつも微笑みをたたえ、優雅な身のこなしで、もう本当に驚くほど美しい方でした。その頃私は19才でしたが、恐らく私よりは4,5年は年上の方だったと思います。

 

美しい人だなぁ、とは思うものの、別に自分に関係あるわけないし、と当初はあまり気にとめませんでした。ところが、何となくその方が私の方を見ているような気がするのです。ふっと受付の方を見やると、偶然かどうか分かりませんが、目が合います。それが何度か続きました。

 

で、目が合ったときに、少し微笑んでおられるように感じます。

 

え? ひょっとして私のことを気にしておられる? いや、もしかして私のことを好ましく思っておられる? 

 

一度そう感じてしまった私は、その感覚がどんどん研ぎ澄まされ、図書館に行く度に、その女性の受付に行くのが日課となってしまいました。事務的に、貸出をお願いします、という一言しか言わないのですが、そのときに、その女性は私が申し込むときと他の人の申込時とは、本当に明らかに態度が違うと確信しました。

 

私が貸出を申し込むときは、何だかとても嬉しそうな顔をされ、微笑んでおられるようなのです。

 

もう私は確信してしまいました。この方は確実に私を好ましく思っておられる。むろん私の方も異存がある訳がない。ここで思い切らないと絶対後悔する、さてどうしたらいいのだろう。

 

毎日毎日煩悶を続けた結果、とうとう決断しました。本の貸出をお願いする時に、告白するのです。まさか、図書館の中で大きな声で告白する訳にもいかず、メモ書きに思いを記し、伝えることにしました。

 

貸出の手続きをされている間に、用意したメモ書きをその方の前に差し出しました。もう私の心臓は飛び出しそうです。でも確信がありました。絶対にこの方も私の好意を受け止めてくれるはずだ。だってあんなに優しい態度で接してくれたし、目が合ったときは何度も微笑んでくれていた。先方も切り出したいのは山々なれど、職務の中で特別の行動とて取れる訳でもない。こちら側からの行動を待っておられるに違いない。

 

そう確信していました。私の差し出したメモは・・・

 

「あなたが好きです。」

 

これ以上考え得る言葉はありませんでした。

 

メモ書きを受け取ったこの美しい人は、にっこり微笑みながら視線をメモ書きに落としてくれました。メモ書きの中にあった語句を見て、はっとされたようです。

 

もう大丈夫だ、私の気持ちが伝わった。やっぱり先方も私のことを好ましく思ってくれていたに違いない、自分から申し出て本当に良かった・・・

 

そう思いながら、先方の言葉を待ちました。むろん、発語ではなくメモで返してくれるはずだ・・・

 

私の恋の思いを受け止めてくれるその美しい人は、私のメモ書きの紙片を見たあと、視線を私に戻し、一生忘れられない微笑みを浮かべた後で、サラサラと別のメモに文字をしたため、私に渡してくれました。

 

「ごめんなさい。私は結婚しています。」

 

・・・・・・・・・・・・

 

その後、この図書館に当面の間、足を向けなくなったことは言うまでもありません。20年あまり、自ら禁足処分と致しました。