平山栄一記録簿  想哲理越憂愁     

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②三昧稽古

古武術の稽古で最も大事な要素は、基本の繰り返しだと感じている。基本の繰り返しは、武術だけでなく、あらゆるスポーツにも通じるのではないか? 

 

繰り返し稽古と言っても、動作の少し速いものでの50回とか100回とかではなく、1000回2000回とかになる。基本的に30分から40分、同じ動作を繰り返すというレベル。ごく稀に、3時間4時間、同じ動作を試みたこともあるが、あまり効果を感じなかった。むしろ、3,4時間、稽古をするくらいなら、40分を5回6回、別のを稽古する、という方が良いように感じる。

 

猛稽古をした方の話を何度か聞いたり読んだりしたけれど、あまりに負荷の大きい稽古は体を痛めると思う。長時間稽古で気をつけるのは、あくまでもゆっくり、そして負荷を小さくするということだ。大きな負荷で長い時間するのは、結局、心肺機能を痛めることになる。

 

ランニングハイという言葉がある。ランニングをしているときに、脳内物質が作用し、陶然とした状況を体験するという感覚。中国拳法では、立禅やスワイショウを長時間するときに顕れるように感じる。ただ、立禅は入り込みすぎると危険。立禅で集中しすぎると偏差になると言われてる。偏差とは精神障がいの意味かと思われる。無念無想というイメージは私自身あまり好まない。立禅の稽古は眼をつぶらない、集中もしすぎない、雑念だらけ大いにけっこう、というイメージ。スワイショウは元々動きがあるので偏差にもならない。移動しながらするようにもしているし。じっとしているのが少しイヤってのもあるね。

 

スワイショウは基本2000回してきた。今では毎日とはならないけれど、できるだけ、2000回するようにはしている。大体40分かかる。やってみれば分かるが、30分経過する頃から動きがなめらかになり、動きのバリエーションの発想が生まれてくる。バリエーションの実験を続ける内に、攻防のヒントとなるような動きを思いついたりできる。貴重な稽古だ。

 

友人に教えてもらった正座も貴重な稽古だが、膝を痛めてからは中々できない。少しだけでもやりたいが・・・ただ、正座をした方が膝の痛みが緩和するということもあるので、時々した方がいい。というより、毎日少しだけでもした方がいい・・・のだけれど、ついつい見送ってるね。今日はやってみよう。

 

ようやく最近になって、馬歩タントウをするようになった。片足禅も時々入れる。これも貴重な稽古だ。下半身強化に繋がるし、体幹の保持安定にもなる。地味な稽古だが大事。

 

中国拳法と言っても、殆どがゆっくり、超ゆっくり、静止などの稽古になる。一番速い動きでスワイショウかな。しかし、多くの人が誤解しているが、ゆっくりや超ゆっくりの稽古ばかりだと速い動きなどできないだろう、と思ってる。全然違う。最近になってやっと理解したが、筋肉には二通りあり、赤筋、白筋がある。遅筋、速筋とも言われる。収縮速度の速さで区別しているらしいが、実は赤筋を鍛えることは、中国拳法では非常に大事だ。遅筋という言葉で誤解されている。立禅や超ゆっくりの試力(シーリー)稽古は赤筋を鍛える稽古だが、これを沢山することで異次元の速さとパンチやキックの重さが生じる。やってみれば分かる。実は実戦上においてもゆっくり動くというのはかなり驚異的なもの。

 

そう言えば思い出した。若い頃、二十歳頃だったか、空手の稽古をしていたときのこと。ある先輩が右手に怪我を負った。たぶん指か手首の骨折だったかと思う。全く使えない。速い動きが全くできない。しばらく悶々とされてたが、ふと思いついたのか、両方の手で交互に、超ゆっくり突きの稽古をするようになった。それも延々と。自分でも気に入ったようで、怪我が治ってからも続けておられた。

 

ある日、スピード組手の名手(怪我した先輩と同期)と久しぶりの組手をされた。普段からこの名手から圧倒されていたのだが、今回は違った。スピード名手は速い動きで圧倒しようとする、方や怪我上がりの先輩はゆっくりした動きですべて相手をいなす。5分経過10分経過。やがて圧倒するのは怪我上がりの先輩の方になった。ゆっくりした動きの中からも、突きや蹴りをスポンと出すが、簡単にスピード名手に命中してしまう。15分も続けただろうか、組手が終わった後、スピード名手は「完敗やー」と敗北を認めた。

 

すごく印象に残っている。ゆっくり動くというのは理由はよく分からないけど、何かしらとても大事な稽古なんだな、と思ったものだ。結局、10数年の空手修行から離れ、中国拳法を始めるまで20年近いブランクを空けてしまったが・・・もったいないことをしたものだ。もっと早く始めればよかった。まぁ、中国拳法を始めてから20年は経過してるから、今後また20年ほど稽古を積めばソコソコ出来るようになるだろう。

 

三昧稽古は本当に大事。ただしあまり気持ちを入れ込まないようにすること。